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落ちる――――――
不安定な感覚の中、私は目覚めた。
何かを掴もうと必死で伸ばして手を掴まれ、その手が愛する夫のものではないことに驚いて、慌てて手を振り払った。
「……そんなに……」
耳慣れない声。
けれど、ひどく悲しそうにつぶやかれた。
頭がクラクラして、すぐに目が開かない私は手探りで掛布団を引き寄せる。でも、次の瞬間、その強烈な違和感に頭を殴られた思いがした。
手で自分の身体を触ると、服を着ていないことに気付く。さらに下へと手を持っていくと、下着の一枚も消えてしまっていた。
―――――あり得ない。何も、覚えてないわ………
愕然とする。
「夏鈴さんの肌、すごく綺麗ですね」
男の手が私の髪を持ち上げてから、首筋から背中側へと滑り込んできた。
「触らないで!!」
咄嗟に防御したつもりで手首を掴まれ、身体の向きを無理やり変えられてしまう。目の前にやってきたその顔を見て、気を失う直前の記憶を引き寄せた。
「……ぼくを拒めないはずだ。ぼくらは結ばれる運命だったんだから」
「何を言ってるの?私にはもうとっくに」「聞いて」
私の言葉を遮った男は細く長い指で、私の顎を掴まえて持ち上げると、唇が触れ合う距離まで顔を寄せて瞳を覗き込んで来た。
「夢見の予言は高確率で中る」
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