第四章 秘伝の能力の秘密

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 馴染みのない顔が近くにあるせいで、息も出来ない。 「ぼくが14歳のとき、あなたを初めて見た。家族で湯布院に行った時、偶然にも同じ宿にぼくら家族も泊まってたんです。  あなたを……一目見た時に雷に打たれたんです。あなたはぼくの運命の人だとはっきりと啓示を受けた。  あなたを14年も待たせてしまって、すぐに見つけてあげられなくて、ごめんなさい……夏鈴さん」  急接近するその顔面に、私は思い切り顔面をぶつけていった。  ガッ!! 「!!!」  男は声にならない声を上げて、一旦私から離れた。  細長い鼻筋に頭突きしたから、しばらくは大人しく黙ってくれると良いんだけど……。  その間に、どう切り抜けるか考えたい。ベッドを降りてはみたものの、自分の着て来た服が一枚も無くなっていた。しょうがなく、ペラペラ素材の羽織ものを拝借して素肌を覆い隠した。  男が悶絶を打つ間にバスルームを見つけ、そこに入って鍵をかけた。不愉快な顔など、見たくもないし、意識がない間に何が起きたのか知りたくないけど知る必要があるからだ。  乱れた髪と化粧が崩れて掠れた表情を鏡で確かめ、自分の両目を覗き込もうと近付いていく。首筋と胸の上にいくつかの赤い跡、そして……。  気付けば私はそこらにあるあらゆるものを掴んで、鏡に向かって投げつけていた。  怖れていたことが起きてしまった。  こんな歳になって、あんな若い子に好きなようにされるなんて、まだ信じられない。  猛烈な怒りが沸いて、苦しくて、涙にならない痛みが全身を痛めつけてくる。  ―――記憶がないだけ、まだマシ。  そう思おうとしても、怒りと悲しみとどうしようもないほどに突き上げてくる復讐心。  この身を引きちぎりたくなるほどのおぞましさ……。
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