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息を殺して耳を澄ますと、誰かが歩いてくる足音が聞こえて来る。カツンカツンという一人分の足音で間違いない。
また、あいつだろうか。
あのガキなら、どうやって泣かしてやろうか。
俺は扉の脇に音もなく忍びよって、ドアが開けられるのを待った。
近付く足音は、ドアの前で止まり静まり返る。中を覗き込んでいる気配がした。
ガチャガチャ、ガコン―――
鍵を開けるような金属音がした。
ギギギギギ―――
錆びた蝶番の摩擦音が反響すると、寒気がするほど嫌な音になる。でも、その派手な音のお陰で俺は多少派手に動いても誤魔化せそうだ。部屋に人が入ってきた。
ドアの後ろ側に隠れていた俺は、ドアが閉まる直前に部屋から抜け出そうと動いたが、振り返ったそいつが俺を見つけて声を上げた。
「あ、いた」
間抜けな第一声。それに、初めて見る顔だ。
さっきのあのクソガキじゃない。誰だ、こいつは……。
「着替えを用意したので、取り合えずシャワーを浴びてから着替えて下さい。それから、荒っぽいことをしてすいません。不審者がたまに来るので、撃退用に買っておいたスタンガンをあなたに使用したと龍から聞いて、本当に申し訳ない。それに、ここは寒かったでしょう?
一人でよくもまぁ、こんなところに運んだと関心しますよ。本当に申し訳ないです」
緊張感のない男は申し訳なさそうに、俺に頭を下げた。
「あんた、誰だい?」
「私は龍の母親の兄です。常識なく育った龍の無礼を、親に変わってお詫びします」
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