第四章 秘伝の能力の秘密

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 いきなり話が通じそうなのがやってきて、俺は拍子抜けした。が、油断は禁物だ。 「……龍という奴が、俺の妻を誘拐したんだ。何が目的か、あんた知ってるのか?」  男は浮かない表情をして、溜息を吐いた。 「一応、身内ということで知ってることはあるけど、理解に苦しむ話ばかりで」と、苦笑いをする。 「悪いけど、私はあまり力になれない。ここではここの法律がある。勝手なことをすると、私もどんな罰を受ける羽目になるか……」  頼りなげな男の後について、俺は牢獄を出てしばらく不思議な廊下を歩いた。廊下とはいえ地下鉄のトンネルぐらいの広さがある。廊下の至る所に壁を照らすライトが設置されていて、反射した光が空間全体を明るく見せていた。俺がいた個室の前だけが明りがなかったらしい。 「ここは地下なのか?」 「見ての通り、地下です。何百年か前に作ったらしい……。まるで遺跡か何かみたいで、神秘的でしょう?食物庫もあって、いざという時の食料と水が備蓄されているそうです。金持ちのシェルターみたいな設備ですよ」 「金持ちのシェルター?」  そんなものがこんな山の中にあるなんて、意外だ。 「君は北海道に駆け落ちしていった野々花さんのお孫さんの旦那だってね?ならば、私と同じような立場だ。知らない話の方が多いんだろうね?お気の毒に。  私が言えることは、地元の警察も教団の言いなりだ。奥さん誘拐されて気の毒だけど、取り返したいなら自力で頑張るしかない……。応援してます」  まるで部外者みたいな言い草だが、この人の言わんとしていることは何となく察した。 「応援してくれるっていうなら、妻がいる場所まで案内してもらえませんか?」  俺の前を歩いていた男が突然立ち止まって振り向いた。
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