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「情けない話だが、私は龍を裏切れない立場なんです。
……だから、ここから先は独り言ということで。
この地下施設の真上に、白い三角屋根の建物があり、四つの屋敷に分かれています。空から見れば雪の結晶みたいな形の施設なんですよ。中央に波戸崎家、東西南北は教団の骨格とも言える四つのお金持ちが所有する別荘になっているんですね。互いの領域の入り口になっている部屋の真上に波戸崎家の主のための部屋があります。隠し階段になっていて、すぐには見つけにくいんで……できれば案内してあげたいところだけど……」
急に歯切れが悪くなり、撫で肩をさらに落とした。
「……私はやめさせたい。本音言えば、もうこんな狂気の教団なんか解散してしまえばいいのに……。あんたの奥さんが逃げてくれれば、連中の夢は破れ自然に壊滅するんじゃないかって思ってるんです。
龍はここに来る前はあんな子じゃなかった。目を覚まさせたやりたい」
切実そうなため息を吐きながら、男は俺に目を向けてきた。
「あんた、強そうだし。何とかしてくれるっていうなら、手を貸しても良い」
俺は頷いた。
「強いかどうかはわからないけど、妻を見つけ出して速攻、北海道に帰ります!」
「……それでいい。そうしてくれると、すごく助かる」
男は不健康そうな顔色をほころばせるように笑顔を浮かべた。絶望から希望に転じたかのように考えているというのなら、過剰な期待を俺にするよりも自分から何か働きかけるべきだと思う。
「あんたも、頑張れば良いじゃないか。あの子のことがそんなに大事なら、従ってばかりいては駄目だと思うけど」
「ごもっとも」
男の顔色が僅かにましになった気がした。
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