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階段を上がり、鉄格子のドアを潜り抜けて地上に出た途端、空気が軽くなるのを感じた。それほどに気圧が違うのだろう。開放感と安堵感で、少しだけ気分が良くなる。
「客室があるんでね。こっち。
まずはシャワーを浴びて着替えをして下さい。会食まであと二時間」
「会食?」
「教団の四本柱の家族が一堂に会する機会が数年に一度あるんですよ。今夜はその前夜祭の夕食会なんです。堅苦しくない親睦会でもあります。女性、子供たちの憩いのための催しみたいなもんです」
「そのイベントにまさか、俺も参加しろって?」
「ええ。波戸崎家縁の者として招待されたという体裁みたいです。それを決めたのは、龍ですけど、嫌なら部屋で待っててくれても……」
「そこに、妻は連れ出されるんですか?」
「そうですね。私は何も知らされてないが、たぶん……」
――― 気分は悪いが、それしか夏鈴に会う方法がないのならしょうがない。
「食べるもの、持って来ましょうか? あんな場所に二十時間近くも閉じ込められたんだから」
「……そんなに?」
殆ど寝ていたようだ。っていうか、スタンガンのダメージで脳震盪が深刻だったのだとしたら、とんでもないことだが。自分の住所やら電話番号やら家族全員の生年月日やらを思い出して、記憶障害は問題なさそうだという確認をしながら与えられた部屋に入った。
シティホテルのような個室だ。窓から入る日差しが柔らかく、旅行に来たような気分にさせる。
渡されたスーツを吊るし、俺は服を脱いでシャワーを浴びた。スタンガンを押し付けられた場所が赤紫色に変色し、どう見ても内出血を起こしている。
「……大丈夫かよ、これ」
少し、いやかなり不安だったが。今は夏鈴を連れて帰るのが最優先だ。
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