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風呂場から出てくると脱いだ服が消えていて、机の上にはラップがかかったサンドイッチと小さな魔法瓶とマグカップが置かれていた。メモ用紙には「洗濯しておきます」と綺麗な字で書かれている。
用意された下着を履いて、下ろしたてのワイシャツを着ると腕の長い俺にぴったりのサイズで、少しだけ驚いた。
スーツは高そうなものだった。靴まで用意されている。
――― 一体、どんな会食なんだ?
ジャケットを羽織らないで、腕まくりをしてサンドイッチを食べる。優しい味わいに胃も心のホッとした。ポットから出てきたのは珈琲じゃなく、コンソメスープだ。夏鈴のことがなかったら、良いホテルなのにと勘違いしてしまいそうになる。
コンコンとノックされ、「どうぞ」と大声を出すと、さっきの男が入ってきた。
「あの、お名前をまだ」
「ああ、私の名前は宇都宮 真司です。遠い先祖が波戸崎家と繋がっているそうで、妹が高校生の頃に縁談の話がやってきて、傾きかけていた家が結納金によって持ち直したっていう……情けない話なんですけどね。
この度は遠路はるばる起こし下さっというのに……。身内の一人としてお詫び致します」
宇都宮さんは申し訳なさそうに言ったが、俺に謝ることじゃないだろう。
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