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「波戸崎家、波戸崎家って、煩いぐらいに聞かされてますけど、そんなに特殊な力なんですか? 俺は妻と暮らしていて確かに少しは奇妙で不思議なこともあったけど、普通で平凡に暮らしてきたんです。偉い迷惑な話だと思ってます」
「……あんたの奥さんは平凡で普通の幸せを大事にできる女性なんでしょうね。私の妹とは対局にいる……。妹は、自分が特別な存在であることを小さい頃から意識していて、周りから見るとかなり浮いた変わり者でした。縁談が来たとき、両親も私もうさん臭さに戸惑ったものですが、妹は飛び上がって喜んでいた……」
宇都宮さんはため息を吐いた。
「結婚した当初は、……ほぼそこから始まった夫婦の関係でしたが、お相手の千尋さんは大人しそうな人で人見知りが激しい内気な男でしたよ。妹は快活で好奇心旺盛なもんだから、一見すると妹が主導権を握っているようなちぐはぐな夫婦でした。歳が離れているのもあったかもしれないけど、千尋さんの包容力のおかげで目立ちたがりの妹が恥をかくような場面では、彼は紳士でした。結婚して二年後には初めての赤ん坊を授かったが、一歳になる前に原因不明の窒息死という悲劇に見舞われて……。それから、三度も同じ歴史を繰り返した……。
龍には生きていれば四人もの兄がいたんです。でも、生きているのはあの子だけ……」
宇都宮さんは苦々しい苦笑とも泣き顔ともとれるような憂いを浮かべ、疲れ果てたようにまた深く長いため息を吐いた。
「普通は男の子を生めば安泰じゃないですか。それなのに、波戸崎家は逆だったんです。待望されていたのは女の子。でも、妹は五度の出産で全員男の子。しかも四人も立て続けに幼くして突然死…。波戸崎家の呪いだと気が触れてしまって……」
聞いているだけでも気が滅入ってしまいそうな気の毒な話だ。
波戸崎家の呪いか……。
そういえば、いつだったか夏鈴もそんなことを言っていた気がする。
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