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「皮肉ですね。野々花さんは美鈴さんという娘を産み、その美鈴さんは俺の妻・夏鈴を産みました。駆け落ちした野々花さん側は、女の子しか生まれていません」
「そのようですね。つい最近、知りました。千歳さんらは野々花さんのことをずっと長い事探していたそうですよ。黒桜さんが亡くなって新聞に載るまでは、消息不明だったと聞いています」
―――そうだったのか。
だとしても、地方の新聞にしか載らないはずの訃報が、こんな遠く離れた信州の奴が見たという話の方が俄かには信じられない。全道広域の訃報が掲載される新聞なんか存在しない。毎日誰かが死んでいるが、数ある地方新聞を全てチェックしている人なんて……。
「あの、訃報を誰かが読んだってことですか?」
どうしても気になって聞いてみると、宇都宮さんは細い目を一瞬だけ真ん丸にしてから苦笑いを浮かべた。
「説明不足でした。いやいや、まさか訃報を見張っている人がいるっていうわけじゃないんです。この教団は特殊な人脈を持っているらしくって、詳しいことは知らないんだけど、どうやら何人か、何十人かの、教団に縁のある誰かの通報らしいですよ」
「……なるほど」
規模も歴史もよくわからないが、教団の人脈が全国にいるということか。
「千歳さんも龍も男ですが、凡人から見れば十分に超能力とも言うべき不思議な力を持っていますよ。でも、龍から聞いた話ですけど本来の力を扱うには全然足りないって……。何が足りないのか、本来の力ってどういう意味なのか、私にはさっぱり。頭がついていけませんでしたよ」
白髪交じりの髪を手で撫でつけながら、宇都宮さんは眉間の皺を深くした。
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