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廊下に出て、右側に小窓が並ぶ渡り廊下のような回廊を歩いた。若干、坂を上っているような傾斜を感じる。窓の外は雑木林で、薄暗い紺色がかった景色を眺め、階段を上り、廊下を歩き、また階段を上ってゆく。
―――この建物は継ぎ接ぎなのだろうか?
さっきから左へ、左へと、少しずつの角度で曲がり、階段と坂で緩やかに山を登っているような気分になる。
頭の中で描いた地図では、まるで古墳のような地形がイメージできた。今、俺達が向かっている場所は鍵型の丸い孔にあたる場所。辿り着くと案の定広い空間があった。大きなダイニングテーブルと沢山の椅子、そこには今夜の参加人数分の食器がすでに綺麗にセッティングされている。各家の控室というものがあるらしく、宇都宮さんはゲスト用の小さな控室に案内してくれた。
「ご武運を」と言い、俺に地図を渡しすと宇都宮さんはウインクをしてから立ち去った。
コップに冷たい水が入ったポッドと、コーヒーメーカーが置いてあり、すでに珈琲は出来上がっていた。
「良い匂いだ」
ブラック珈琲は身も心も解してくれる。
窓から見える景色は相変わらずだが、山間の静かなリゾートで休暇を取っている気分になってくる。
クソガキがどれだけ調子に乗ろうと、夏鈴がそれを許すわけがない。
万が一、夏鈴に何かをしていたならば俺は躊躇いなく奴をぶん殴る。
時々、ドアの向こう側で複数の人の気配を感じた。
給仕の人が動き回る気配もしている。
その時が近付いている。
―――何があっても俺か夏鈴と帰る。
何度もそう自分に言い聞かせていると、ふいにドアが開けられた。振り返ると、なぜか恵鈴が不思議そうな顔をして部屋に入ってきた。
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