第一章 コレクター

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 私は立ち上がり、ドアの後ろに滑り込んで待機した。ごそごそと何かをしている気配がしてから、ガコンと施錠が解ける音が響いて、すぅっとドアが開いた。メイド服を着た大人の女性がせわしない足取りで部屋に入りお膳を掴んだ瞬間、ドア裏から抜け出て部屋の外に飛び出して、長い廊下を足音もなく走り抜け、角を曲がり別のドアノブを掴んで押したり引いたりした。  ―――駄目だ、ビクともしない。  廊下という繋がった空間の中で、食器を重ねている音が聞こえてきた。彼女はまだ私が抜け出したことには気付いていないようだ。  それにしてもここは廊下の床までふかふかの絨毯を敷いている。廊下を周っていくと、同じようなドアがいくつかあった。全部でおそらく四つのドアがあるのだ。  東西南北の位置関係さえつかめられたら、迷うことなどない。部屋から見えた空の様子から、北か東に向いていることはわかっていた。今、私がいるのはきっと南側だ。  三枚目のドアを開けると、簡単に開いた。中を確かめると、また長い廊下に繋がっていた。「まるで迷路ね」と、驚きつつ心の中でつぶやいてから、私は前に進むことに決めた。  ―――諦めたら終わり。  自分にそう言い聞かせながら……。  * * * * *  ふと目を目覚めて驚いた。  俺はいつの間にか寝てしまっていた。  エンジンが付いたまま、停車していたのはサービスエリアの駐車場だ。もう夜が深まっている時間帯だというのに、結構な人がいる。運転席は空っぽで、おそらくトイレ休憩とかにでも行ったんだろう。  寝ぼけた頭の中に、見知らぬ風景が映り込む。プロジェクターみたいに、長れていく映像の中にひたすら森林の中を進む車窓の光景が視えた。無音で無味無臭の切り取られた画像のみの資料を見つめる気分で、呆けながら見つめていると。白い三角の建物が目についた。
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