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ガチャっとドアが開く音がして飛び上がるほど驚いたら、お袋が「あれ?起きてたの?」と聞いてきた。おかげで不思議な映像はもうどこにもない。
でも、もしかするとあれが恵鈴の居場所の手がかりかもしれないと思った俺はお袋の腕にすがりつくように手を伸ばした。
「たった今!なんか、視えた!!」
両手に熱々のカップ珈琲を持ってきたお袋は、苦笑いを浮かべながらカップホルダーにそれを置いて、さも落ち着いた様子で聞いてきた。
「なにが視えたの?」
「白い三角のピラミッドが、森の中にあって……」
「白い……ピラミッド?」
お袋はポケットから端末を取り出して電話し始めた。
「もしもし、夏鈴です。こんばんは。夜分にすいません。はい、今諏訪湖SAまで来ました。………今、燿馬が何か手掛かりになるビジョンを見たと言ってるんです。真央さんがご存じの美術館やアートギャラリーで、白い三角形の建物ってご存知ないですか?」
お袋が電話をかけたのは、親父じゃなくて蒼井 真央さんだ。かつて、親父の東京時代の恋人だった上司だったとか…。一年前に受験の下見の時期に家族で招待された個展に行って、それから恵鈴の個展の話に至るまでの間何度も会ってきたギャラリーBLUESTARの美人オーナーだ。
同業者同士なら情報を持っているかもしれない、とお袋は考えたんだろう。
「……はい、できれば急いで。正直、ここまでは来たけどここから先はどこに向かえば良いのか……。恵鈴の大学のアトリエで見つけた名刺の名前、”白鷺 丞”という美術商が、スカウトに熱心だったみたいです。なにかわかったらすぐ連絡下さい。ご協力に感謝します!ありがとう!はい、お願いします!」
お袋は電話の向こう側に深く頭を下げて切った。
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