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「俺に隠す必要がある?」
「……ないけど」
「じゃあ、教えてよ。万が一お袋まで居なくなったら俺どうすりゃいいんだよ?
そんなことにはならないって保証はないんだからさ。情報を共有しておいて損はないと思うけど」
「……そうなんだけどね。言うのがやっぱり不安なの。
概念にあればこそ効果を発揮する呪いを無効化できるのは、知らなくていいことは知らないでいた方が良いということなの。だから……」
お袋はまだ俺達を子供扱いしている。それはありがたいことだけど、今は……。
「いい加減守られてばっかりっていうのも嫌なんだよ。呪いがどんなものかわからないけど、今の時代に非現実的なことなんて起きっこないんだからさ」
「それは違うわ」
お袋はまた鋭い目つきになって俺を見据えた。
「呪いが起きないのは、起動させないからであって、いつ起動してもおかしくないものがあるの。不発弾みたいなものよ。どんな被害が出るかわからない。
私にとってパパやあなた達に不幸な出来事が起きたら、自分の身を引き裂かれるよりも辛いことなの。夢物語なんかじゃないのよ。
軽はずみなことは出来ない……」
思い詰めたように自分の腕を抱きしめたお袋は微かに震えているみたいだった。
俺は思わずお袋の手を掴んで握りしめた。恵鈴よりも小さな手。小さかった頃は、この手が大きくてどこまでも優しいせいで、俺はかなり甘やかして貰ってきた。それなのに、今のお袋はまるで俺の知らない顔をしてフロントガラスをジッと見つめていた。
「私にとっても未知な世界なの。怖くてどうしようもないの。でも始まってしまった」
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