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「東海林 恵鈴が波戸崎の血筋だって、お袋は相手がどうしてわかったと思ってるの?」
俺の質問をじとっとした顔で受け止めたお袋はまた、険しい顔になった。
「お爺ちゃんの葬儀に来てくれた人の中で、明らかに知らない人が一人いたのよ。その人は私と恵鈴をかなり見ていたわ。それから、一周忌の時もお墓で遠巻きから私達を見ていた」
「……俺、気付かなかった」
「先に気付いたのは恵鈴だったわ。
お爺ちゃんやお母さんを偲んでいるのとは違う感情で、私達の様子を見ていた……。
こっちから話し掛けようか迷ってるうちに、いつの間にか居なくなったの。何かとても嫌な感覚になったのを覚えてる……」
お袋はぶるりと震えた。
「たぶん、見に来たのよ。お爺ちゃんとお母さんが死んだのを確かめに来たんだって、思ったわ。
波戸崎黒桜と美鈴の死をどうやって知ったのか、不思議よね? 二人の葬儀は即日だったわ。遠方から来るなら、不自然なぐらい早すぎる。おそらく、教団にはまだ波戸崎の血を継ぐ人がいて、ふたりの死を嗅ぎ付けて来たんだと思う」
そこまで言うと、珈琲を啜った。俺はなかなか言葉が見つからなかった。自分の知らない誰かに見張られていたなんて、気味が悪過ぎる。
「お、俺。恵鈴から何も聞いてないよ?」
哀れなほど情けない声で、俺は訴えた。何でも知っているつもりで、知らされてないことがあったなんて、かなりショックだ。
「私が言わないでって恵鈴に頼んでたからよ。恵鈴を責めないであげて」
「なんで?」
なんで、俺には黙ってたんだ?
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