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「ええ。あなたは信じない方が良い。むしろ、その方が燿馬らしく暴れられるわ。
宿命は変えられないものじゃない。概念は心を縛り付けて呪いになるけど、信じなければ効果はないの。
肝心なのは、宿命の重力に押さえ付けられることから自由になること。それしかないんじゃないかな?」
お袋は冷たくなった手で、俺の手に重ねながら微笑んだ。
「私はね。波戸崎の因縁の終着駅になる覚悟は出来てるの。恵鈴にもあなたにも血の一滴も流させたくない。私が終わらせる。必ず!」
因縁? それはどんな罪や業なんだ?
親父の顔がちらついて、また胸やけが蘇ってくる。お袋一人に全て任せて良いもんじゃないことぐるいわかってるから、余計に歯がゆくてイライラしていた。
「頼むから、一人で何とかしようって考えるのだけはやめてくれよ?こんな時こそ、助け合おうよ!俺達は家族だ。お袋一人に任せるなんて薄情者はうちにはいない。そうだろ?」
お袋の瞳に溢れ出した涙を見つめながら、俺は得体の知れない敵に心底ムカついて、今にも殴り掛かりたい衝動と戦っていた。
* * * * *
左右両側にあるつまみを指で押しながら、窓を持ち上げてみると、やっと外気に触れられた。
パタパタと足音が駆け寄ってくる気配を感じながら、窓を開けきると上半身から抜け出して、屋根の上にでた。いつの間に二階に上がったのか、地上までの距離に足がすくむ。
「いたわ!」
女の声がしたと同時に、滑り台を滑り落ちるように私は廊下の窓から離れた。連れ戻されたら、最期。そんな不吉な予感に背中を焼かれる。
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