616人が本棚に入れています
本棚に追加
/352ページ
三角形の屋根の上を転がるように落ちていく。
途中あるでっぱりに背中を引っ掛かれて、思わず悲鳴を上げそうになりながらも、咳をするように抑えた。そして、三メートルほど放射線を描きながら落ちた先には垣根があって、身体中に細かな傷はできたけど運良く衝撃は最小限で済んだ。痛みを感じながらも、地面に足を下ろしてすぐに歩き出す。ボヤボヤできない。
この辺りの森は手入れが行き届き過ぎて、隠れられるような藪も十分な幹の太さがある樹も限られている。吸い寄せられるように向かおうとして躊躇した。そっちはダメだと言われた気がして、一瞬立ち止まった。
風が道案内を始めた。
生温い風に吹かれて、右へと走り出す。フェンスが見えてきて、躊躇いなく登りはじめた。三メートルはありそうな高さをよじ登り、乗り越えた時に下を見て一瞬目眩がした。
手が痛くても離す訳にはいかない。
「大丈夫。落ち着け、私」
白い建物を見ながらフェンスを降りていくと、人の声が聞こえてきて、私は地面に着地した途端に伏せた。
フェンスを越えた途端に野生の森になっていて、ゆっくりと真後ろに下がりながら、森の中に身を隠す。
夜の森は完全なカモフラージュになる。でも、地理勘のない私にはハイリスクだ。毒蛇のマムシや、虫が苦手な私にはかなり恐ろしい環境だけど、あれ以上あそこに居たくなかった。白鷺という男の内なる怒りが恐ろしかった。
最初のコメントを投稿しよう!