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北海道の山とは違う森は傾斜がきつくて針葉樹が多く、掴む場所があまりないからかとても歩きずらい。混乱しつつも混乱するわけにはいかない。泣きながら、でも冷静に足場を確かめながら道ならざる道を歩くと、何度も木の枝に引っかかって傷だらけになった。
離れなくちゃ。
ここから逃げなくちゃ。
「ママ……、燿馬……、パパ……」
次々に皆の顔を思い浮かべて、また必ず会うための一歩ずつを噛み締めながら前に進んだ。
「私を守って下さい……。みっちゃん!お爺ちゃん!」
亡くなっても尚、二人の突然の死がまるで昨日のことのように感じる。もう一年半前のことなのに、二人の顔がはっきりと見えた。
「恵鈴、こっちよ」
「足元に気を付けなさい。そんな靴でもないよりはましだから」
言われて私は靴のことを考えた。
そうだ、ローヒールだけど去年、燿馬がプレゼントしてくれた靴を履いていたんだ。
「みっちゃん!お爺ちゃん!?」
疲れてるせいで幻覚でも見てるのかな?
いつの間にか、私の両脇に二人が歩いていた。
「お前には苦労をかけてすまないな。恵鈴」
ごつごつした手が私の頭を撫で下ろす。この感じ、凄く懐かしい。
「感動の再会に浸る時間は許されてないわ。悪いけど、歩き続けましょう。
夏鈴と燿馬が近くまで来るから、案内するわ」
みっちゃん、こと私の祖母の美鈴さんは変わらない笑顔を私に向けながら言った。温かい手が背中に触れて、力が沸いてくる。
「迎えに来てくれるの?」
ママと燿馬が?
―――嘘みたい、でも本当のことだとわかる。
ママは昔から、私達のピンチにはどこにいても追い付いてきた。迎えに来てくれた。今回もきっと、ママになら不可能じゃない。
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