第二章 手繰り寄せられて

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 掲示板の赤い文字を睨みつけながら、溜息ばかりが零れ落ちる。こんな時、まず第一にそばにいなかった自分を、どうしたって責めてしまう。大事なら手放してはいけない、というのは違うと考えて、俺は子供たちが巣立つ背中を大人しく見送ったつもりだったが、心のどこかでは何度も「これで良いのか?」と自問自答していた。そんな俺を見透かしたように、妻はいつも寄り添ってざらつく不安を慰めてくれた。  その妻も、今は先に出発して隣に居ない。心細くてしょうがない。  バカみたいに腕時計ばかりを見て、椅子に座ったり立ったりして落ち着かない。搭乗口の渋滞の中でも、家族の非常事態なんだから先を譲って欲しくて何度も暴れ出しそうな衝動を抑え込んだ。そこを通過したところで乗り合う飛行機の所要時間は変わりないんだから―――。  手元の端末に30分置きに夏鈴や燿馬からメールが届いた。レンタカーを借りて東京を出発した二人は信州に向かっている。 「……っくっそ……」  さっきから持て余した苛立ちで指を鳴らし過ぎて節々が痛かった。夜のとばりが降りた空港の窓ガラス越しに見える滑走路の、やけにキラキラした誘導灯の明りを眺めながら、頭の中で到着後の段取りを組み立ててはやり直す。道内の仕事最優先でやってきて、しばらく離れすぎた東京の状況がわかりかねた。  ジャケットのポケットでバイブレーションが俺を呼ぶ。我に返って手に取ると、真央さんからだった。
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