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言いかけて俺は躊躇った。
恵鈴が突然消えたのは、本当に誰かに連れ去られたのか。それがはっきりとしないのに、他人にそんなことを打ち明けて大事になっても良いものかどうか、わからない。
『ねぇ、晴馬君。あなたにとっては嫌なことかもしれないけど、私ね。夏鈴さんとは良い友達になれているんじゃないかなって思ってる。彼女はすごく綺麗な人よね。賢いし、自分の心を真っすぐ伝えてくれる……。
女同士で通じ合うものもあって、男のあなたには言ってもきっとピンとこないようなことも彼女と色々と話をしてすごく目からうろこな発見もしたの。もっと早く友達になりたかったなって思ってるのよ。私は友達を作れない欠陥人間だったから、特にね』
そこで一度言葉を切った彼女は、電話口の向こう側で息を飲んだのがわかった。
『私の親、父は自殺して母は誰かに殺されたの。それを見抜かれて、夏鈴さんの能力の凄さを体験してるわ。恵鈴ちゃんの絵の才能の秘密も少しだけ聞いている……。昔の私なら到底信じられない話だったけど、今は信じてる。常人にはない能力のせいで、夏鈴さんも相当苦労してきたってこともわかってるつもりよ。
私は何か力になれることがあれば、どんな協力も惜しまない覚悟があることを言いたかっただけだから。気を付けてね。困った時は連絡頂戴』
賢い彼女はそう言うと電話を切ってしまった。
俺はホッとしつつも、あの嫉妬狂いになって苦しんだ夏鈴が、その原因となった真央さんとそこまで親睦を深めていたことに驚愕と感動を覚えた。
―――俺には真似できない。
もしも、夏鈴に付き合っていた男がいたとしたら俺は冷静になんかなれない。良い歳になっても、俺の独占欲と異常な程の妻への愛は狂気と背中合わせだと自負している。
どこか大人びた印象が強かった夏鈴が、自分を見失うほど俺の過去にジレンマ感じて苦しんだ姿を見て、愛おしさはさらに増したと思われ。
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