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詫びながら泣く老人の様子を眺めながらも、触れられたところから虫唾が走る。
「嫌!触らないで!!」
思わず手を引っ込めたら、老人はまるで傷付いたような目を向けてきた。
「……どうしてお前は、いつから私のことが嫌いになったんだ?」
「いつからって……」
「おじい様。この人は夏鈴さんです。いくら野々花さんの生まれ変わりだからって、彼女は前世を覚えてないんですから、どうしようもありませんよ」
そんなセリフを聞いて、驚いて男の顔を見ていた。目と目が合う。
余裕ぶった笑みを浮かべ、なぜか小さく頷いてからウインクをする。こういうタイプはゾッとする。
「ほら、自己紹介がまだですよ。おじい様から言わないなら、僕から言ってしまいますけど、良いんですか?」
言葉は丁寧だけれど、明らかに若い男の方が主導権を握っている気がする。異様なやり取りを黙って待ってしまう。
「嘆かわしい」と言うと、老人は椅子の背もたれに身を預けて目を閉じ、さめざめと涙を流していた。すると、私の背後から誰かが駆け寄って、老人の涙を白いハンカチで拭き始めた。真っ白い看護服を着た女性だった。
「夏鈴さんを連れて来るのが遅すぎたみたいです。おじい様は日に日に呆けが悪化している……。そのうち、この僕のこともわからなくなりそうです。
さ、こちらへどうぞ」
またしても名も知らない彼に肩を抱かれ、開けたドアの向こう側に連れ出された。
「あなたは一体、誰なの?何者なのか、早く教えて!」
半開きの瞳で楽しげに薄ら笑いを浮かべた男は、「そんな聞き方じゃ、答えません」と、また意地悪なことを言った。どこまでもひねくれている。
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