第二章 手繰り寄せられて

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「要領を得ない会話しかしないなら、もう帰ります」  私の本気を見た彼は廊下の途中で立ち止まって、壁に私を押し付けた。腕の間に挟まれて身動き取れない格好になると、顔を近付けてくる。  右手で彼の顔半分を覆って押し返すと、手首を掴まれた。 「さっきから、なにしてるの? あなた」  毅然として睨み返す。  それなのに、その男はまたニヤリと薄ら笑いを浮かべて囁くように言った。 「帰しませんからね」 「どういうつもり?」 「……まだ廊下なので、僕の部屋に行きませんか?」 「断ります」 「……何もしませんよ?」 「信じられない……。さっきから、あなた調子に乗ってるじゃない」 「だって、全然予想と違うから、ついはしゃいでしまって……」  男は私の髪の先を持ち上げて、私の目の前でそこにキスした。 「やめて!」と、髪の毛を払って、体当たりするように突っぱねるけど見た目よりもしっかりしていてびくともしない。 「波戸崎家の血筋の者は平均的に若く見えるんだそうですよ。白髪も皺も出てきません。あなたのお母様、美鈴さんも実際の年齢よりもかなりお若く美しい女性でしたよね?」  どうしてお母さんのことを知っているのだろう?  どうして私の力は発揮されないんだろう?  この男、誰なの??  男はまた私の腰に腕を回してきて、グッと引き寄せられてしまう。狭い廊下では逃げ場所がないため、再び大きな手が私のお尻の方へと下がっていく。  咄嗟に思い付いて、足を踏ん付けようとしたら交わされてしまった。男は嬉しそうに笑っている。 「考えが全部顔に出てますよ。夏鈴さん、可愛い」
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