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「取り合ったわ。間違いなく。話ぐらいは聞いたと思うけど」
胸の前で両腕を組んで睨みつけてやった。でも、なぜか龍は嬉しそうに肩をすぼめた。
「あなたはそういう人でも、あなたの旦那さんは絶対に拒絶したと思いますよ?
僕が見る限り、彼はまるで躾けられた野生の狼みたいな男だ。あなたが好き過ぎて、あなたの周りにいる人間を一人ひとり良く観察している……。だから、きっと彼は僕を見たら絶対にあなたに近付けたがらないでしょう。それぐらいはわかります」
確かに言われてみれば、その通りかもしれない。
晴馬は私の人間関係をきちんと見守っていてくれた。
「それに、彼はすごくセクシーだ。黙っていればモテる男性ですよね?
この絵を描いた田丸燿平も彼に夢中だった……」
―――え??
―――――どうして、それを?
「あそこにある裸婦画のスケッチ、よく見れば骨格が男性なんですよ。
後姿とか横顔とか、そうそう、こっちのこの風景画の中に書き込まれている歩いている男のシルエットも、晴馬さんそっくりだ。あっちの絵にもこのシルエットの男は描き込まれている。
大学在学中に描いた10枚中、7枚の絵に登場しています。
田丸燿平さんて、バイセクシャルだったんでしょう?」
そこまで知っているなんて、と私は怖くなる。思わず自分の両肩を抱きしめた。
「彼の絵を所有していたのは、当時彼のスポンサーをしていた大手下着メーカーの女社長だったんです。彼女は田丸燿平をペットの猫を可愛がるようにして、自分の自宅に住まわせていた。その住宅地の一角に、彼らがいかがわしいクラブを経営していたのを聞いたことありませんか?」
次々に個人的な話が飛び出すのを聞かされて、気分が悪い。
「もうやめて。それ以上聞きたくないわ」と遮っても彼は笑顔で「ここからが面白いのに?」と意地悪く言うのだ。止めるつもりはない、そんな目を向けて微笑んでいる。
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