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「彼、あんまりセクシーだから一部のマニアが盗撮アダルトビデオを所有して楽しんでいたんですよ。女性からも男性からも大人気のセクシーアイドルだったんです。ふふっ」
―――そんなこと……。
酷く気分が悪くなってしまう。
「一度きりしかそのホテルを利用しなかったみたいで、作品は一本。幻の一品として重宝がられていました。世の中には人の心を掴んでしまう優れた容姿と、それに見合うだけの魅力が備わった人間て早々いませんからね。夏鈴さんはかなり面食いだったんですね?」
言い返す言葉もわからずに、私は俯いた。
精神的なダメージが相当あることは間違いなかった。
この龍という子は、悪質だ。
「恐い顔も素敵ですね。益々あなたが好きになりそうです」
私は露骨にため息をついて、立ち上がって龍を見下ろした。
「人の不幸を面白がるなんて、最低な人がやることよ?」
見上げながら背もたれに背中を預け、さらにニヤニヤと笑った龍が瞳を輝かせた。
「あなたに罵倒されるのは気持ちが良いです。もっと怒って下さい、夏鈴さん」
―――ゾクゾクっと、背筋に悪寒が走った。
「………」
なにから言い返せば良いのかわからなくなっている。
怒りで我を忘れてしまえば、この男の思う壺だ。落ち着かなくちゃいけない。
紅茶を別の器に入れて、空いたソーサーに直接ケトルのお湯を注いでからそれを飲むことにした。同じ食器から出たお湯ならば安全と思ったのもつかの間―――。
後味の中に痺れるものを感じて、すぐにそれをテーブルの上に……落とした。
「あなたはお転婆過ぎるので、少し大人しくしてて下さい。僕はこれから来るゲストと大事な話がありますので、二時間ほど寝ていて下さい。夏鈴さん」
運ばれた部屋は薄暗く、正方形の大きなベッドに横たえられた私は朦朧としていた。注意していたのに、まんまと薬を盛られていたなんて……。
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