第二章 手繰り寄せられて

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「一体、どんな連中なんだ?」  乱れた呼吸を整えがら、再び立ち上がって歩き出そうとしたとき。突然、前方に人影が現れた。  細身の男が黒いコートを着て歩いてくる。道なき道ではない、このモニュメントに辿り着くための踏み固められた道を悠々と歩いてくる男の顔がようやく見えた時。さっきのふざけた電話の男の声を思い出して、ムカムカした。 「速かったですね」と、思った通りの声がして俺は憮然と向き合った。  その距離は五メートル程。 「夏鈴に手を出してないだろうな?」  男は首を傾げて、ははっと少しだけ高い声で笑った。耳障りな声だ。 「おひとりですか?息子さんもいらしてくれたら良いのに」 「夏鈴は?!」  俺は怒鳴った。  質問を平気で無視するような軽いノリの男は、「そんな時間なんかないってば」と小さな声でぶつぶつとつぶやいた。 「連れて帰りたい。妻に合わせろ」 「お断りします」  男は間髪入れずに返答した。毅然とした声だった。 「僕は波戸崎家当主です。彼女は本家にとって今じゃ必要な存在になりました。離縁までしろとは言いませんが、大事な用が済むまではこちらで身元を引き受けさせてもらいます」 「どんな用だ?」 「それは関係者以外に口外できないものです」 「夏鈴は俺の妻だぞ!関係者だろうが!」  頭にきて、そう怒鳴っていた。夏鈴の親族だろうと、波戸崎家当主だろうと、怪しい教団の幹部だろうと、関係ない。娘を誘拐され、妻まで拉致られて、舐められてたまるか! 「いえ、あなたは部外者です。  あなたをここに呼んだのは、夏鈴さんが間違いなくここにいるという誠心誠意を示すためです。今日から一か月後に北海道のご自宅までこの僕がお送りしてあげますから、今日は大人しく帰ってくれませんか?」
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