第二章 手繰り寄せられて

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「大人しく帰るわけがない!妻に合わせろ!無事を確認させろ!自分たちがどれだけ非道なことをしたのか、わかってるはずだ!」  俺はにじり寄って、男の顔が良く見える場所まで近付いた。  白んだ空から降り注ぐ淡い光の中だけでも、その男の顔がやけに幼い気がして推定年齢がわからなくなる。でも、確かに言われてみれば美鈴さんや夏鈴に、いや、燿馬に似ている気がした。年齢も十九歳前後に見える。 「その若さで当主か?」 「僕はこう見えても、もうすぐ三十歳ですよ」 「………」  美鈴さんは五十七歳で亡くなったが、見た目は今の夏鈴とさほど変わらなかった。波戸崎家の血筋はどうやら老けにくいらしい。 「あなたも五十歳には見えませんね。せいぜい四十台前半ぐらい……、なぜだかわかります?」  いやらしい笑みを浮かべた男は、目を細めて俺を下から上えと嘗め回すように見上げた。 「毎晩、あの美しい妻を抱いてその精気を吸っていたなら、若さを維持できて当然です。彼女とのセックスこそが滋養強壮剤だった、とは思いませんか?」  他人の口から夫婦の私生活まで指摘されるなんて気持ちが悪い。 「黙れ!口を慎め、分別ある大人ならそんな礼儀作法とっくに知ってる筈だ!」  けれど男は俺の話を無視して、言いたい放題を続けた。 「夏鈴さんはずっと自分の能力を封印してきているせいで、底知れないエネルギーを溜めています。彼女の力を引き出せるだけ引き出したら、お返ししますよ。その時は普通の人間になってるはずです。あなたにとってもその方が安心でしょう?」  集中しなければ全く意味を介せない。何の話をしていたのかさえ吹っ飛んでしまいそうで、俺は雑念を払うのに必死だ。
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