第二章 手繰り寄せられて

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「人の妻を油田みたいに言いやがって!」 「油田、面白い比喩ですね。さすが、晴馬さんだ」  男はけらけらと明るく笑っているが、俺は全く逆で超ムカついていた。この温度差も調子を狂わせられる。 「夏鈴さんて、強いでしょ?波戸崎家の女は皆丈夫に生まれてくるのに、野々花さんだけは違った。彼女は兄千歳との間に子を設ける宿命から逃げたので、命尽きるのが早かったんです。でも、お蔭で野々花さんの魂は輪廻転生して、今は夏鈴さんとして生きている。先代の当主はまだ現存で、夏鈴さんと交わればきっと病も記憶も正常に回復できるでしょう。あと一年だけ、波戸崎千歳には生きててもらわなければ困るんですよ」 「誰が困るんだ?」 「教団を必要とする大物たちが、です」  話がぶっ飛び過ぎている。必要そうなキーワードだけ覚えて、後で考えれば良い。  俺は聞いた話を即座に把握できない。  同時に二つ以上のことをこなせない。  自分の欠点に足を引っ張られ、イライラが最高潮に達しかけている。 「全然、納得できない!」 「でしょうね。だから、電話で言ったんですよ。ぼくは夏鈴さんが欲しくなりました。お爺様の用が済んだら、ぼくが妻にしたいぐらいだ」 「勝手なことを!!」  もう我慢ならなくなって、俺は飛びかかろうとしたがひらりと身軽に交わされてしまった。鋭い蹴りが飛んできて、みぞおちに奴のつま先が刺さり激痛に膝まづいてしまう。  奴が俺の背後に来るのを感じてコートの襟繰りを掴もうと体をひねろうとしたら、鎖骨の辺りに鋭い痛みが走った。全身に痺れと激痛が広がる。 「心臓病はお持ちですか?」  俺にスタンガンを当てながら、能天気な声でそんな笑えない質問をしてきた。  屈辱と怒りを抱えたまま、俺はねじ伏せられてそのまま昏倒してしまった―――
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