第1章

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ヒーターの暖房が点いたダイニングの向こうクリスマスツリーが光を灯している。 「ただいま、雪が降っていたよ。」一樹がコートを脱いだ。 「お風呂沸いてるわよ。」明子がコートをハンガーラックに掛けた一樹に言う。 家族って何だろう。同じ時の中で何年も一緒にいる。 人は死ぬ。生きて来た時間の中で愛した人を想う。 この人の為にと命を削る。その想いは悲しくならないようにと生きる。そうでない人もいる。それでも愛すればその想いは悲しくならないようにと生きる。悲しくならないようにと人は生きる。悲しいことはある、毎日楽しいことばかりではない。人は人を傷つける。愛する人の為、自分の為に。エゴイストが殆どの人間、人のことより自分のことと言うのが大半。しかし、傷つけた人は傷つけられた人がどんなに愛する人を想ったのか、それを競争と片付けることで良いのか。愛する人がいるならどんな言葉を残すだろう。その言葉を一樹が二人に言えるか。それはきっと静かな歌の小さなフレーズの言葉のように。 「那奈じゃあ、お風呂に入ろうか。」テレビの方を向いている那奈に一樹が言った。「ちょっと待って。」バラエティ番組が面白いのか那奈は小さい声で返事した。 「先に入ってるよ。」クリスマス・イブだからか一樹の言葉は静かで優しかった。コートを脱いだ一樹はアタッシュケースを茶の間の隅に置いてスーツとネクタイをタンスに掛けると脱衣所に向かった。引き戸を開け、閉めた。寒さに少し凍えながらワイシャツを脱ぐ。外は雪が降っている。白い息を吐いてバスタオルを手にした。裸になった一樹がバスルームに入る。  バスルームに入った一樹はシャワーのお湯を出した。冷えるバスルームの中で窓の向こう冬の風の音がした。クリスマス・イブ、雪はバスルームの窓に映らない。一樹はお湯になったシャワーの湯気を見てから体を洗い始めた。ニベアのボディソープをボディウォッシュのスポンジに浸けた。湯気が立ち上るバスルーム、体を洗い切った一樹が湯船に足を入れた。お風呂に浸かって、両手を揺らす。一樹は体を伸ばし壁に凭れると天井を見上げた。  那奈が脱衣所に入って来た。那奈は服を脱いでいる。勢い良く服を脱いで那奈はバスルームのドアを開けた。
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