1、もしも私が…

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  しかし、まあ、成長には個人差があるのもまた事実だ。過成長、とでもいうのだろうか。私は大学時代、教育実習で訪れた小学校に、まるで女子高生かと見まごうほど体躯の発達した女児が少なからずいたことを思い出した。私は勝手に、野菜や食肉の生育に使われる成長促進剤の影響ではないかと邪推しているのだが、この子もそのたぐいだろうか……? 電車は護国寺を通過した。平日なら、私の職場はすぐそこだ。  「ママが絵本、読んであげるね」母親が手を伸ばした、その時だった。  「いやぁあ~~~!」絵本を取り上げられるとでも思ったのだろうか。娘はまた大声で泣き始めてしまった。  余計なことを……。 せめて私の降車駅まで耐えてくれよ……。  私は内心毒づいた。それにしても、いくら何でも泣きすぎだろ!  また振り出しに戻ってしまった。こっちが泣きたいくらいだよ、本当。  子どもの泣き声と同時に、あのハゲオヤジも舌打ちをするという責務を思い出したようだ。  癇癪を起した娘は「おかーさん、おかーさん」と、必死に母親に何かを伝えようとしている。が、母親はまた壊れたバネのように周囲に頭を下げているので、全く、それどころではない。  一体何が悲しくてこれほど泣いているのだか……。  激しく泣き叫ぶ娘に、多少の違和感を覚えつつも、私にはそれが何かわからなかった。  そこで、娘の絶叫は一層激しくなり、考えるどころではなくなった。  ええい、第二の策だ。私がやればいいんだろう、全く。  とはいえ、もうネタ切れで絵本に頼ることはできない。身近なものでなんとかするしかなさそうだ。  「チクタク、チクタク、あと何回まわれば次の駅?」  私は、泣きじゃくる娘を抱き寄せ、腕時計を見せる。  幸運にも、私の策は功を奏したようだった。娘の泣き声は潮のように引き、一定の間隔で動き続ける秒針や、腕時計の細工に見入っている。  私はほっと息をつく。  「あれ?」私はそこで、違和感の正体に気がついた。  そういえば……。  この子、母親のことを「お母さん」と呼んでいるのか?  でも確か、さっきは……。  
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