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「・・・俺はここにいたい」
「お兄ちゃん、わかってて、誤魔化してる。みんなを待つのは、桜の下じゃないでしょ?」
少女は空を指差した。
「あそこで、みんなを、待ってて」
英治は自分が音もなく泣いているのがわかった。
「・・・『桜の木の下には屍体が埋まってる』そう言われているのってさ、俺らみたいな奴がこうやって集まるからなのか?」
「そう、でも、元々は違う言葉」少女は少しだけ優しい顔になった。
「前はね、『桜の木の下(もと)には屍体が待っている』だったよ。お迎え列車鉄道の、社歌なの。私達駅員は、毎朝、それを歌って、仕事を始めるの」
ガタンガタン。響きのない音が聴こえてきた。
「お迎え、来たよ。ちゃんと、乗ってね」少女は英治に手を差し伸べた。
「・・・みんな、俺が、待ってるところに、来てくれる、かな?」
「私が送り届ける。その時が来たら。」
ドアが開いた。
「・・・花見、したかったな、みんなと」
「向こうで、出来るよ、待ってて」
列車が動き始めた。
「・・・さようなら」英治は手を振った。
「お疲れさま、お兄ちゃん」少女は敬礼して応えた。
夜空の先に列車が吸い込まれていくのを、満開の桜が見送った。
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