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植松正一郎。赤ん坊は、豪一郎と加奈子によって、そう名付けられた。
「正一郎……しっかりと生きるんだぞ……」
里親となった植松夫妻が、これからこの子を育てていく事になる。しかし、この後、正一郎と正一郎を取り巻く様々な人間模様は、ねじれたメビウスの帯のように巡り巡って、無限のループを繰り返し、やがて、誰しもが、想像だにしなかった結末を迎える事になる。それは、ある意味宿命だったのか?運命の悪戯だったのか?まだ、誰にも知る由もなかった。
「美恵子!!いい加減にして、そろそろ学校に行きなさい!!」
植松家の長女の、植松美恵子(みえこ)は、十七も歳が離れた、新しく植松家にやってきた弟が可愛くて仕方がなかったようで、ずっと、正一郎の傍(そば)を離れずに、スヤスヤと眠っている正一郎の可愛い寝顔を見つめていた。
「あ~!!分かったよ~!もうすぐ出かけますよ~!!」
美恵子は、もう少し正一郎の傍にいたかったけど、仕方ないと諦めて、学校に行く準備を始めた。
「お兄ちゃん!!今日、大学行かないの~!?」
学校に行く準備を済ませた美恵子は、多分、まだ部屋で寝ているであろう兄の宗一郎(そういちろう)に、念の為、確認を取ろうとした。
「あ~!!もう少し、寝かせてください~!!」
大学生の長男、宗一郎は、時計を確認してから、また眠ってしまった。
「私、今日は、バイトだから、夜ご飯いらないって、お母さんに言っといて!!」
美恵子が、制服姿で、家を出た。春の、暖かい温もりに満ちた快晴の天候に恵まれて、美恵子は、気分よく学校へ向かった。
「お疲れ様です!」
駅前の、ちょっと、洒落たイタリアンレストランが、美恵子のバイト先だった。
「おうっ!美恵ちゃん、お疲れっ!!」
店長の、尾長(おなが)さんに挨拶を済ませた美恵子は、制服に着替えるため、従業員室に入った。
「美恵ちゃん、今日、新しいバイトの子が、初出勤だから。いろいろ教えてやってね!」
店長は、開店前の仕込みをしながら、美恵子に話しかけた。
「うわっ!新人ですかぁ~、男の子ですか!?」
髪を後ろに束ねながら、美恵子は、出来ればカッコいい男の子であってほしいと勝手に願った。
「う~ん、残念ながら……美恵ちゃんと同じく女子高生です!しかも、歳も学年も一緒の高校二年生の子だよ!!」
「なぁ~んだ、つまんないなぁ……」
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