第1章

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 私も臨戦態勢に入った。足蹴り、パンチ全て交わされた。どうやらコイツは、ボクシングやってるようなステップと身のこなしだ。そう思った。数分後、私はKO負けを喫した。  カーロス・リベラのせいで耳から血が出てきていた。鼻血とかなら大丈夫だけど耳から出血ってヤバくね?パンチドランカーみたいになっちゃうのかな?  その後も、言い合いは続いたが、近くの電話ボックスから私が派遣会社へ電話をかけて、 「今日は、無理です!」そう伝えた。  引越し業者の社長からも電話で、 「あんちゃん、もう帰っていいから……」  社長が、認めた事でようやく私は、このクソ現場から解放された。  耳から血が出て、さすがにマズいと思った私は、CTスキャンだったか?MRIだったか?忘れちまったけど、脳神経外科で検査をした。その前に大きな脳神経外科病院に行ったのだが、受付の女性に、 「今回の検査を受ける理由を教えてください」  と言われ、馬鹿正直に、 「ケンカで殴られたからです」  と答えたら、 「それだと保険が使えません。自費でお支払い頂く事になりますけど、それでもよろしいでしょうか?」  無知な私は、当時ケンカが理由では、保険が使えないという一般常識を、ちっとも知らなかった。 「自費ですか……」  結局、その大病院での検査を諦めざるを得なかった。  2件目の脳神経外科での検査の結果、特に脳に問題は見受けられなかった。ホッとした半面、あのカーロス・リベラに対する怒りがこみあげてきてしまった私は、アパートに戻ると、あの会社にクレームの電話を入れるという暴挙に出た。 「はい、もしもし○○運輸です」  聞き覚えのある声。社長だ!! 「あの、この前そちらの従業員とケンカして早退したフタクチと申しますけど……」 「……ああ、どうされましたか?」 「オタクの従業員に殴られたせいで、耳から出血をしました。慰謝料払ってください!!」 「ああっ!?」 「何度も言わせんなよ!これは立派な傷害事件だぞっ!!」 「お前、何言ってやがるんだ!先に膝蹴りを入れたのは、お前の方だろう!!」 「ならば、お前らの会社を爆破してやる!!」  私は、今思えば、かなり恐喝に近い電話をしたもんだと振り返れるが、この時の私は、若さがあったとは言え世間知らずだったのだろう。  その日の夜六時過ぎに、アパートに電話がかかってきた。 「はい、フタクチです」
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