第1章

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 数年後、私の様なリタリン乱用患者が、日本中に繁殖してしまい、「リタラー」と呼ばれるようになっていた。事を重く見た厚生労働省は、睡眠発作の「ナルコレプシー」という難病の患者以外にリタリンの処方を認めない方針を示した。  リタリンの呪縛から解き放たれた私だったが、今度は、大量の向精神薬の副作用によって醜く太り、時には、何を喋っているのか?分からないほど呂(ろ)律(れつ)が回らなくなって、当時、バイトをしていたパチンコ店では、今は、どこのパチンコ店でもやっていないだろうマイクパフォーマンスで、噛み噛みの意味不明な言葉を繰り返して、客に失笑される醜態を日々、晒(さら)していた。また、尿閉という尿道が狭くなる副作用によって、自慰行為や、たまに性欲処理の為に行っていた千葉市栄町のソープランドでも射精困難に陥り、男性としての機能とプライドをアッサリと失った。そういえば、高校生の時に住んでいた袖ヶ浦市で飼っていた雌犬のお友達の中に、ゴロウという若い雄犬がいたが、去勢手術を行ってから、ブクブクと太り、まるでボンレスハムの様な体型になってしまった事があった。私の推測ではあるが、性欲が満たされないオスは、代わりに食欲が旺盛になって、肥満体型になるのでは?そう思ったものだ。  鎌取の薬物依存更生施設での暮らしは、退屈極まりなかったが、三食おやつに昼寝付きの、まったりライフが、いつの間にか心地よくなっていく感じがしていた。毎週月曜日の午前中の嗜好品発注日になると、渡された既定の用紙に欲しいものリストを記入した。その日の午後には、注文したタバコや、チョコレート、ジュースや雑誌などが個々に配給された。割と寛容な、ぬるい施設だったと今になって思う。  毎週、月・水・金曜日は、入浴日だった。脱衣所で衣服を脱いでいると、皆さん、たいそう立派な龍やら虎やらの彫り物が刻まれた裸体を私に見せてくれた。入浴は、とても気持ちが良くて、当時の私は、薬なんてやらなくても、何かしらで得られる快楽や快感は、この世の中に沢山あるのではないかと思ったものだ。
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