第1章

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 施設での私の部屋は、一番手前の6人制の相部屋だった。面子は、ヤクザの組長、その手下など。やっぱり、そっちの関係の人が大多数を占めていた。アル中のお爺さんもいた。他の部屋からも私の部屋に遊びに来る人達が毎日絶えなかったが、多くは、覚醒剤。それ以外だと、大麻や、シンナー、勿論アルコール依存症の方々も多かった。アルコール依存症の方々は、私が観察していた限り、更生は、不可能なんじゃないのか?と思った。何故なら、出所しても、酒なんてコンビニなどで、朝から売っているし、値段だって子供でも買える程の金額だ。案の定、タケルと呼ばれていたアル中のオッサンは、私が入所してくる以前の数年間で何度も出戻りを繰り返していたらしい。  施設では、1日4回、朝、昼、夕、寝る前に全員が一列に並んで、それぞれの症状に合った薬を飲まされた。中には、薬が強すぎたのか? 「舌が痺れて、しょうがねえよ!!あんちゃん、アンタは、どうだい?」  なんて質問されたので、 「飲んだふりして、便所で吐き出してますよ。どうせ鎮静剤とか、大人しく言う事を聞かせるためだけの、つまんない薬だろうから……」 「お~、その手があったか!そうするよ!」  模範生を演じるために大人しくしていた私は、その当時22歳。患者の中でも下から数えた方が早い若僧だった。 「フタクチ、お前何やってここに来た?コカイン?ヘロイン?やっぱ覚醒剤?」  患者の中では、まあまあ若くてイケてる感じの茶髪の近藤から、午後のまったりタイムにそう聞かれた私は、 「う~ん、まあ、興奮剤みたいなもんです」  とだけ答えた。   まさか、精神科で処方された合法薬でここに来たなんて、筋金入りのジャンキーが、わんさかいるここでは、恥ずかしくて誰にも言うまいと思っていた。変なプライドだった。 「おい、フタクチ君とやら、君は、何でここに来た?」  今度は、相部屋のヤクザの組長から、定番の質問が来たぞ。 「これか?」  組長の石橋さんは、ジェスチャーで腕に注射を打つ仕草をしてみせた。 「……まあ、そんなもんです」  ここでは、ひたすら大人しく、模範生を演じよう。早く出所するためには、それが一番だと当時の私は、考えていた。 「ニグチ君、コーヒー飲みたくねえか?」  名前が間違っていたけど、怖いから、 「はい、飲みたいです!」  素直?にそう答えた模範生ニグチ。
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