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「今、拵(こしら)えてくっからよ!ちょっと、待ってて!」
彼は、石橋さんの組の下っ端の中野さん。もう二十年も、ここにいるらしい。
「お待たせ!」
中野さんが、作ってくれたコーヒーは、とてもぬるくて不味かった。
「どう?」
「はい!凄く美味しいです!」
私は、意外と世渡り上手だったのかもしれない……
相部屋の、私の隣のベッドの野口さんも、石橋さんの手下だった。ただ、話しぶりを聞いていた限り、中野さんよりは、格上のやっさんだったようだ。
「う~、洋子、洋子!はあ……」
野口さんは、よく夜中にシャバに残してきた洋子さんという奥さんをおかずに、自慰行為をしていた。6人もいる相部屋で、同じ行為をする勇気は、当時の私には無かった。
施設に入所してから、2週間が過ぎたあたりの夜中。私は、小便がしたくなって目が覚めた。施設の中心部分にあったトイレに向かって歩いていると50メートルほど先に夜勤の職員と1人の患者らしき者の姿が確認できた。私は、瞬間的に何か胸騒ぎの様な嫌な予感がした。
「ニグチ君、教えておくけど、この施設の奥の個室には、近づかない方がいいよ。かなりヤバい患者が、奥に行けば行くほど厳重に鍵をかけられて拘束されている。俺らなんかよりも、ずっとずっと頭がぶっ飛んだ奴らが潜んでいる……」
私の事を「ニグチ君」と信じて疑わない中野さんからのアドバイスを思い出した。
「うわっ、しかも一番奥の患者じゃん!」
私は、そう小さく呟いて、見て見ぬ振りをした。だけども、私は、ほんの一瞬、そいつと目を合わせてしまった。
「何見てんだ、この野郎~!!」
そいつは、そう叫びながら私の方へ猛進してきた。
「うわっ、やっべえ……」
私は、生まれて初めて、人に殺されるかもしれないという恐怖感に襲われた。
「待て、ダメだよ!」
夜勤の男性職員が、間一髪そいつを後ろから羽交い締めにして私は、九死に一生を得た。
「……怖えぇ」
元来、気の小さい私は、未だにこの時の恐怖感を忘れたことはない。
施設には、数人だけ女性の姿も見受けられた。
住吉さん。まだ25歳の巨乳の持ち主で、かなりの美人。性格明るし。
安藤さん。もうすぐ出所する予定の組長、石橋さんの愛人。
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