第1章

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 高野さん。朝から、就寝時間の夜9時までテレビの前から立ったまま離れず、ご飯の上に、おはぎを乗っけて食べるのが大好きな偏食鬼。他の患者からは、毎日立ちっぱなしで10時間以上テレビの前から離れない彼女のその習性から、「案山子」カカシとあだ名をつけられた。  以上が、この施設に私が居た時の女性患者だった。カカシは、大川栄策のファンだったようだ。住吉さんは、既婚者だけど、若くて巨乳な元気な女の子。使用薬物は、覚醒剤。施設の輩どもを日々夢中にさせていた魔性の女といったところだったろうか…… 安藤さんは、石橋組長の愛人らしいが、見た目は普通のおばさんに見えた。こちらも使用薬物は、覚醒剤。カカシは、よく分からないけど、単に精神疾患で入所してきたとの噂。観察していた感じでは、統合失調症の可能性が高いと思った。  ある日、施設内でちょっとした事件が起こった。新しく入所してきた若い男性。両耳にピアスをあけて、ちょっと生意気な感じだった。 「お前、いい加減にしろよ!」  数分後、施設の主任が、そいつと大声で口論し、やり合っていた。なんでも、入所者全員に行う尿検査を、その若僧は、頑なに拒んだらしい。そして、大声で続いていた口論の中で、若僧から決定的な言葉が、飛び出した。 「所詮、お前らは、俺らヤク中患者がいるお陰で飯が食えてるんだろうよ!!」  この言葉が、決め手になって彼は、入所せずに何処かへ消えてしまった。多分、自宅に戻ったのだろう。  施設での、現実社会と隔離された奇妙な日々は、それほど長く続かずに済んだ。大きな理由としては、私の使った薬物が、精神科で処方された合法薬だった事。所長から、千葉市中の精神科へFAXが送られて、フタクチ タクヤには、決してリタリンだけは、処方しない様に。との注意喚起が、なされていた。もう1つの大きな理由は、入院中私が、ひたすら大人しく模範生を演じきった事のようだった。再犯の可能性は低い。そう判断されたようだった。  退所当日の午前10時。父親が、私を迎えに来てくれた。私は、お世話になった職員さんや、患者さんたちに挨拶をして、そそくさと施設から逃げるように外へ出た。
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