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その当時は、あのオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きたばかりで、野郎どもは、車中その話で持ちきりだった。勿論、単なる派遣のバイトの私は、会話には、うかつに参加できない。黙って、クソ野郎どもの話を聞いていた。
トラックが現場に着いた。
「おいっ!派遣!さっさと支度しろよっ!!」
「うっせ~な、わかってんだよ。このクソガキが!」
私は、男らしく心の中でそう呟いた。
「あの~、これ少ないですけど人数分ありますから……」
引越しを依頼したのは、このお婆さんか……律儀に一人ずつ五千円札一枚が入ったご祝儀をくれた。
「ラッキー!このままバックレちゃおうかなぁ~!」
私は、素直にそう思った。
「おいっ!派遣!お前まさかその金自分で貰うつもりじゃないだろうなぁ?」
「えっ?だって一人ずつくれたのに……」
私は、このありがたき五千円を手放すのは正直御免だった。
「うちの会社の規則だから、派遣野郎には、ご祝儀は渡せないんだよ!!早く返せよっ!」
マイガット!!嫌な予感的中だぜ……ブラック引越し業者じゃねえか!
「お前、もっとキビキビ動けよ!!使えねえなぁ!」
もう限界だ。作業開始から一時間。私は、勝手に荷物をまとめて歩いて帰る事にした。
「やってらんねえよ!バ~カ!!」
そんな捨て台詞を残して私は、駅のある方向へ歩いて行った。
「ふんふんふ~ん?」
最悪の現場から解放された私は、まるで仮釈放された囚人のように清々しい気分だった。
「おいっ!待てよっ!!」
「ん?何だ?」
振り返ると奴がいた。私の頭の中に流れるチャゲ&飛鳥の「YAHYAHYAH」
「?い~まからソイツを?今から、ソイツを殴りに行こうかぁ~?」
「お前、何バックレてんだよ!!」
走ってやって来た輩ども三人。
「金は要らねえから、帰るっつってんだよ!」
私も、今更現場になんか戻りたくなかった。
「お前、それで済むと思ってんのかよ!!」
タトゥー&ピアス野郎が、私の胸倉を掴んできた。瞬間的に私は、ソイツに軽く膝蹴りをかました。
「ぐっ!!」
いきなり、傍にいたカーロス・リベラ風ヤンキー小僧が、私のテンプルに右ストレート一発。左ジャブ一発を浴びせてきた。
「お前、ふざけんなよっ!!」
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