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二十年後
そして今日がその二十年後だ。会社では若いとされているアラサーでも、大学時代よりも体力は無くなっている。山に登るのはきつい。その人はそう思った。
大学を出てからの日々は、音の速さで駆け抜けていった。だが、このタイムカプセルという目的のおかげでただだるいだけの生活は送ってこなかった、その人はそう信じている。
「あれ、みーちゃんは?」坂井がそう話しかけた。
「まだ来てない見たいだ」と久保は応えた。
「それにしても二十年は早いね」
「それはないだろ。君みたいなアラサーさんが高齢者見たいなこと言わないで」
咲き誇っている桜の下。二人は二十年前に埋めたタイムカプセルを回収しにきた。しかし、一緒に埋めた人であるみーちゃんがまだ姿を見てない。
何故みーちゃんがこないのだろう。二人ともさっぱりだった。
「みーちゃん、ここ数年、かなり大変だったね」と坂井が言った。
「まあね」久保が続けた。「無実だったとはいえ、一時的に一家殺害の猟奇殺人者に仕立て上げられたからね。本当に大変だったと思うし、辛かったと思う」
「マスコミもネットも本当に心がない、そう痛感したよ」
「二十年前にあったみーちゃんのお父さんが巻き込まれた冤罪を彼が罪を犯したようにみせたこととか」
二十年前の五月、みーちゃんのお父さんが傷害の疑いで捕まったという出来事が起きた。彼は無実だったが、近所から村八分にされ、七月に転校していった。そんな出来事があった。
「それだからこそここに来て欲しいよ。少しは元気が出るかもしれないし」坂井が言った。
「昨日、一緒に食事したときには『明日、ちゃんとあの桜の木の下で待っててね』と言ってたのに。急な事情ができたのかな」久保はそう言った。驚きを隠せないでいる。
「…とりあえず、日が落ちるまで、待ってみない?」と久保は続けた。坂井も「…そうだね」と応え、みーちゃんを待った。しかし、本人は現れず、「…タイムカプセル、取り出そう」坂井が声をかけ、十分ぐらいかけて掘り出した。
その後、みーちゃんが二十年前に埋めたものを家に届けたが、そこにもみーちゃんは居らず、一時的に坂井が預かることにした。
次の朝、みーちゃん、久野美空がくー、坂井来海に殺され、坂井が逮捕されたことをさーちゃん、久保智はテレビを見て知った。
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