第1話 「TOKYO」

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 そんな中事件が起きた。ドラムをやっていた男が突然失踪したのだ。  その部活内メタルバンドのメンバーは、  ボーカルのタカシ(ハイトーンな声が出るというだけで多数決で採用された。伸介は高いキーの声が出ないことが今も昔もコンプレックスだった)、  ギターのユウタ(こいつはイングヴェイを信奉していて嫌いじゃなかったけど、性格はとてつもなくいい加減だった)、 もう一人のギターのカズシゲ(長嶋一茂に顔が似ていたのでそんなあだ名に……)、  ベースが伸介で、ドラムはリョウタ(いけ好かないイケメン)で結成されていたのだが、そのリョウタが全く練習に顔を出さなくなった。  軽音楽部の先輩からは、 「お前らのバンドの事なんだからお前らで責任取って探して来い!」  との指令を受けた。バンドの事とはいえ、出会って一月足らずの、大して仲良くもない、むしろ嫌いな奴を捜しに行かなければならなくなってしまったのだった。  何度電話しても繋がらない。学校に来ている様子もなかった為、彼の家まで探しに行くことになった。知り合いづてに住所を教えてもらい、神奈川県だとわかった時は全員げんなりした。  ボーカルのタカシも幽霊部員になりつつあったので、伸介とユウタとカズシゲの三人で神奈川県のリョウタの住むというマンションまで一日かけて探しに行った。どう見ても一人暮らしの家ではなく実家だろう。勇気を出して何度も呼び鈴を鳴らしたが何一つ反応はなく、何の収穫もないまま三人はそこを立ち去るしかなかった。  帰り道、夕暮れ時の公園で途方に暮れながら、 「俺、こんな事する為に軽音に入ったんじゃないんだけど」  と、カズシゲは堰を切ったかのように怒り出した。  その日以降、カズシゲは部活にも来なくなり、その後校内で会うことすら一度もなかった。
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