第1話 「TOKYO」

2/5
前へ
/6ページ
次へ
 彼はもちろん大学に入学して間もなく、同じく音楽のプロを志す仲間を探そうとした。芸術学部を名乗る学校だ、きっとYOSHIKIのような激しくも叙情的なピアノやドラムを叩く奴や、イングヴェイのような天才的ギタリストがきっとゴロゴロいるに違いない……何の迷いもなくそう思っていた。  何故か武道館で行われた入学式を終え、練馬区江古田にある校舎に入るとそこには多くの部活、サークルが勧誘活動を行っていた。祭りのような雑然とした喧騒の中で、一人伸介は迷いなく足を進めていた。彼の手にはすでに「軽音楽部」と記載済みの入部届けが握られていた。人ごみを払いのけ、伸介は軽音楽部のブースに行き、躊躇いもなく入部届けを提出した。 「お! 軽音楽部、また一人入部決まりました~!」  とけたたましい先輩部員たちのバカ騒ぎの中、伸介は未来への希望で胸がいっぱいだった。  ふと、伸介はカレーを食べる手を止めた。 「チッ」  と舌打ちをし、彼はカレーを無理矢理口の中へかき込み、コップの中の水をゴクリと飲み干して、逃げるように学食の外に出た。ずっと下を向いてカレーだけを見つめていた伸介の目に、真昼の太陽はチクリと眩しかった。 「あんな奴ら、死んでしまえばいいのに」  そうボソッと口にして彼はまた舌打ちをした。  伸介が学食を出た理由は他でもない、軽音楽部の人間が入ってきたからだ。  伸介は大学二年が終わると同時に軽音楽部を辞めた。あんなに夢いっぱい希望だらけの気持ちで入部したはずなのに何故か……?  一番の理由は軽音楽部がいわゆる「飲み部」だったせいだ。伸介は入部して間もなく行われた新入生歓迎コンパ、通称「新歓コンパ」においてその洗礼を早速味わわされた。  先輩から注いでもらったビールはその場で飲み干さなければいけない。飲めと言われたらNoと言ってはいけない。誰かが全裸になれば後輩も空気を読んで全裸になる……そんな昭和然とした体育会系のノリがそこにはあった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加