理性と欲望の天秤

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「お前には関係ないことだろ」 「大ありよ!親友だもの」 「関係ないだろ」  智孝はため息交じりでそんなことを言う。里紗もそんな兄の姿や思い当たる節に先程の勢いはなくなったものの、攻撃の手は緩めない。 「わかってるわ。お兄ちゃんが有羽を大切に想っているからこそって。でもね、何か違う気がする。傍から見てても、お兄ちゃんの態度って素っ気無いもん。有羽が不安に思うの無理ないよ。──お兄ちゃん、何か隠してない?まさか、本当に有羽のこと彼女として見てないとか」 「そんなわけないだろ。変なこと言うなよ」  少しずつ智孝が苛ついているのがわかった。表情も口調も随分と険しくなってきている。  二人のことでどうして里紗に口うるさく言われなければならないのか。なぜ有羽に伝えるべき気持ちをこんな口論の場で言わなければならないのか。同じようなことを彼女と妹に言われ、かといって行動に移せないもどかしさ。──様々な理由が智孝の心をざわつかせているようだった。 「じゃあ、何で?」
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