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「あ、これにお酒入れるとおいしくなるよ。入れた?」
「いや。じゃあ入れるか。確かその下の戸棚にあるはずだけど」
「ここ?えーっと」
屈みながら戸棚を開けちらりと中を探るも、一見してはどこだかわからない有羽。その旨を伝えると、隣からひょいと智孝が顔を覗かせる。
「その奥にあるのがそう」
「あ!これだね。はい」
料理酒を手に顔を上げると、智孝の顔との距離に有羽は胸を一つ高鳴らせた。そして渡そうとしてた酒を一旦自らの膝の上へ乗せ、目を閉じる。
「ん」
それがキスをして欲しいという合図であることに一瞬驚いたものの、智孝は先程の有羽と同じ言葉で頷き、唇を軽くのせる。
照れ隠しから有羽が目を開けると同時に料理酒を取り、立ち上がる。顔を向けようとしない智孝に寄り添って、有羽はくすくすと笑いを零した。
それから数分後。有羽は少し不安そうな、緊張を含んだ口調で智孝を呼びかけた。
「もし、あと数時間で私ともう二度と会えなくなるとわかってたら──キスで終わったりしないよね?」
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