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パサ、と床の上に布が落とされる。その瞬間目を開けたくなったが、彼女の言葉を思い出し、ぐっと堪える──と、そんな智孝の苦労も無駄に終わり、突然鳴り響いた携帯の着信音に驚き、視界が開けた。
「あ」
同時に同じ言葉を発し見つめ合う二人。有羽は咄嗟に胸を隠し言葉をぶつける。
「見た?」
「見えなかった」
正直に、悔しい気持ちも込め、智孝が答える間にも着信音は流れる。有羽に出ることを勧められ、智孝は毒づくような気持ちで携帯を手に取った。画面には妹の名前が表示されていて、さらに舌打ちしたくなる気分だ。
「何だよ」
「怖っ。第一声がそれ?まだ怒ってるの?」
「怒ってなかったけど、用は何だ?」
いつもと違う兄の様子を察したのか、里紗は遠慮がちに問いかける。
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