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「兄ちゃんと仲直りできてもできなくても連絡することになってたから。もし仲直りできなかったら戻ってくるって言ってシュウの所行ったんだけど、里紗、すごい心配してたから気になってしょうがなかったんだと思う」
「お前、さっき、里紗はちょっと出かけてくるみたいなこと言ってなかったか?」
「だって……あの時は兄ちゃんに嫌われたと思ってたから。里紗に戻ってきてもらうことになるかもって……」
電話に出る前と同じようにベッドへ腰掛けた智孝の元へ、おずおずと近づく有羽は、拾い上げたパジャマで胸を隠しつつ片手を差し出した。そっと智孝の頬に触れるとためらいがちに口を開く。
「まだ、目閉じてて」
そして智孝の瞼が閉じられたのを確認すると、有羽はパジャマから手を離し、代わりにしがみつくようにして智孝の顔を胸に埋めた。
「まだ……まだだよ」
緊張から声を震わせる有羽の心音が、智孝の顔を打つ。まるで全力疾走したかのように波打つ鼓動に、緊張が移りそうだった。自分を落ち着かせようと深呼吸を繰り返すが無駄に終わりそうだと感じた有羽は、とうとう許しの言葉を出した。
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