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いつだって口下手で損してきた。ううん。口下手なんてものじゃない。
わたしの言葉は毒だ。みんなを傷つけ、苦しめる。そうしてすべてを壊してしまう。
「あたしたちがクローンって、どういう意味なの。芽衣」
部長の由利香がにらんだ。由利香だけじゃない。後輩、男子、美術部のみんながわたしを見つめている。髪や頬に、怒りが伝わってくる。それはどれくらい後ずさりしても変わらなかった。
どうしよう。なんて話せばみんなからわかってもらえるんだろう。
「ソメイヨシノってね、もとは全部同じ木からできたんだって!」
精一杯、明るく、前向きな口調のつもりだった。でも雰囲気は変わらない。それどころか舌打ちの音まで聞こえる。
部室いっぱいの桜色のキャンバスが、燃える炎に見える。
「だから、そのみんなが同じ桜の絵を描いてるのが、同じ人間の、クローンみたいって」
ここ一ヶ月の課題テーマは『春』だった。そしたらみんな油絵でピンクを使っていて、それはとてもつまらないことに思えた。もっと、別の角度から考えたほうがいい。
でもそれを言葉にしてはいけなかったんだ。
由利香が足音を立ててこっちにやってきて、キャンバスを取り上げた。
「なるほどね。春を緑と土で表現したんだ」
さすが!いいところをついている。
「そうなの。春って花だけじゃないでしょ。雪が溶けて、緑が出て、土が変わっていくから」
言い終わらないうちに、キャンバスが床に叩きつけられた。ごめんねー。あたしたちクローンなもんだからさあ。由利香は間延びした声で話しながら、上履きで絵を踏みつけた。
「悪いけどさ。みんなあんたみたいに才能とか、ないの」
「そんなことないよ」
わたしは首をふった。
「由利香だって構図が斬新だもん。それは、今回の個展に出られなかったのは残念だったけれど」
そのとたん、今度はわたしが床に叩きつけられた。みんながかけよってくる。でもそれは由利香にだ。ひどい言葉で傷つけられ、泣きじゃくっている由利香に。
画材やカバンをまとめて、美術室を出ようとした。あーあ。ごめん、くらい言えないわけ?だれかの声が聞こえた。
「ごめんなさい」
返事はなかった。窓から射す夕焼けと、悲鳴のような泣き声だけがあたりを満たしていた。
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