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すぐ寝られる。
子供の頃は特技といって良かった。わたしは横になると10秒どころか3秒で寝てしまう。たくさん寝ることですくすくと育ち、小学校は無遅刻無欠席。
中学校に入ると、徹夜で勉強したという友人よりもたくさん寝たわたしは、スッキリした頭でテストに挑んでは徹夜組より必ず良い成績を残していた。
健康そのもののわたしは部活でもずっとエース格であった。
デメリットだったことといえば、深夜番組を観られなかったことと、家庭教師の先生の前で寝姿をさらし続けたこと、それに修学旅行で枕投げを楽しめなかったくらいだ。修学旅行で起きると枕がわたしの上に積み重なっていたときはさすがに悲しかった。
すぐに寝てしまうこと。
これはデメリットだと認識し始めたのは高校の時になる。
ソフトボール部全員で大会後、河原に夕日を見に行った時だ。青春そのものである。わたしたちは決勝を前に敗れた悔しさを落ち着かせに行ったのだった。
「あたしが打ってれば……ごめん」
「春奈のせいじゃないって」
みんなが最終回にチャンスで凡退した春奈を慰めていた。
「でも、ほんと千佳に申し訳ない。あんな良いピッチングしてくれたのに。ごめん、ほんとごめん、千佳」
春奈は泣きそうな声でピッチャーのわたしに謝った。
「……」
わたしは返事をしなかった。
そりゃ、そうだ。わたしは草むらに倒れた時点で眠っていた。春奈をみんなが慰めていた頃、すでにわたしは深い眠りについていたのだ。
それからボールをぶつけられたり、罰ゲームとしてキスをされたり、バットで股間をまさぐられたりしたらしいが、わたしは仏のような顔を崩さず起きることはなかったという。今もチームメイトのスマホにはその時のわたしの寝顔が御守りとして保存されているらしい。
結局、春奈が学校に電話してわたしの親がすっかり暗くなった河原に迎えに来たとのことだ。
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