2.勝負どころ

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2.勝負どころ

 その日は朝から久しぶりに心が踊っていた。  うきうきしているとか、もうそんなレベルではなかった。  心の中のわたしは、朝からロックにレゲエ、ブレイクダンスまで激しく踊っていた。ここ数年でここまで高揚したことはない。  定時まであと30分となった頃には、心の中のわたしはひたすらウインドミルで床じゅうを転げ回っていた、と思う。  舞台は整っていた。  同期の海老沢優衣が合コンの誘いを持ってきたのはちょうど1ヶ月前のことになる。 「千佳、久々飲み行かない? だいぶ先だけど」  ランチタイムも中盤に差し掛かった頃、わたしはサンドイッチの包装紙にある原材料をながめていた。正直あまり美味しくなく、その原因を原材料から探っていたのだ。 「うん? いつぅ?」 「1ヶ月あと」 「ほえ? そんな先? また何でさね、えびちゃん」  えびちゃんはいつも通り自分でこしらえた小さな弁当をちょこちょこと頬張っている。同じ弁当を愛する彼氏にも作っているのだろう。 「うん、相手さんが忙しくてね。でも、あっちから言ってきたんだよ」  わたしは原材料に『グリシン』という強そうな物質を見つけた。これが美味しくなかった原因でないかとつきとめ、そのグリシンに後ろ髪を引かれつつも、えびちゃんの匂わす「あっち」という相手の方がよほど気になった。 「あっちとは? 海老沢くん。相手とは一体誰だね。え?」  えびちゃんをストローで突っつくと、えびちゃんは可愛く両手で壁を作ってわたしのストロー攻撃を防御した。  これがかわいさというものか、と思う。
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