勇者そこで眠る。

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 多くの仲間の助けを得て重厚な扉を押し開ければ、途端に広がる眩しい光が視界を白く染め上げる。  悪魔を討伐する勇者という肩書きを母に押しつけられた少年は、これから起こる未来の景色から意識を現実に戻すと、仮眠を取るために寝転がった位置より少し横にある城の横穴から、鋭く射し込んだ日光を顔面で受け止めていた。カッと開いた目はパッと閉じられ、代わりに口が大きく開く。 「仮眠中に移動させるなって言っただろ!」  少年の心からの叫びに年相応の顔でケラケラと笑うのは、少年と同じ肩書きを持った少女だ。彼とは別の村出身で、初めて顔を合わせたのはふたりの勇者を故郷から運び出す馬車の中。御者は口を聞いてくれないからと、外の景色の素晴らしさを城前まで延々語るところからも、なかなかに肝の据わった子どもである。  勇者の役割を自覚したうえでその少女は楽しそうに笑う。
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