◆エキジット

2/9
前へ
/85ページ
次へ
 延々と、永遠に続く、青、蒼、碧。  海底を背にした海里を見て、私も同じ姿勢を取った。両手を拡げて全身の力を抜いて。白いフィンがゆらーりと揺れて。  帰ってきたなあって感じ。冷たいけどあったかくて、もうなんにもいらないって思う。  あ、タンクなくなったら今は困る。息出来なくなっちゃう。あとバディの海里も。スクーバは二人一組のバディ制だから、いなくなったら潜れない。  それから、首に提げるドッグタグも。名前と生年月日とインカローズが埋まったシルバー。  もしも、海に沈んで死んでしまっても、私が誰だかわかるように。  身を翻して海底を覗くと、眼下には青の中で踊る白とピンクのグラデーションが綺麗なハゼ達。サンゴ礁の中長い背ビレをなびかせている、白黒黄色が鮮やかなハタタテダイ。イソギンチャクの中でちらちらとオレンジの姿を見せるアネモネフィッシュ。藤色の身体と黄色い尻尾を蠢かせるコンペイトウウミウシ。思わず触りたくなるのを堪えて、水中用のデジカメを構え数枚撮った。  ログを付けたり、リーフエッジの宣伝ブログに使ったりする、そんなに気合の入れたものじゃないやつだけど、撮ったそれを眺めるのが密やかな楽しみで。  チョウチョウウオの群れが身体のすぐ脇を通り抜けて、目を見張る。 困ったな、見るとこ多過ぎ。上下左右、360度、全ての景色が一瞬で様相を変えてしまう。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加