◆エキジット

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 私を見た海里に向かって両手を使って輪を作り、その中心を吹くような仕草をする。すると海里はマスクの中で右目を瞑り、ウインクをした。了解のサイン。  息を吸って、マウスピースを外し、口先から一気に放出。広大な海の中に小さな流れを生み出した。  鈍い銀色をした空気の輪っかが海面に向かっていく。イルカが遊びでつくるバブルリングは、やり方次第で人間にも出来る。私は出来ないけど。  海里の口角がにいっと上がって、大きく漂っていく輪を嬉しそうに見る。  私もふわふわと日に透けるそれを眺めながら、流れに身を任せた。  なんて綺麗な世界。  生物は元々海から誕生したはずなのに、どうして揃いも揃って陸に上がっちゃったんだろう。えら呼吸が出来たらこんな計器ばっか身につけなくても済むのにな。直立二足歩行よりもヒレと尻尾があればもっと自由だったはず。  だけどそしたら、この世界を綺麗と感じる思考能力も持ち得なかった。  矛盾してるなあ。  私はこの世界がとても好き。音が遠ざかって言葉はいらなくて必要なのは、会話ではなく『対話』になる。  海を相手に。生き物を相手に。自分と、バディを相手に。  何かあっても私たちは潜る。何もなくても、私たちは潜る。そうやって何年も過ごしてきた。ふたり似たような胸の痛みを抱えて。
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