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日が落ちて満潮が近付く19時前。ハンディライトを手に私と海里は再び浜辺に来た。
真っ暗になった海が誘うように波音を立てる。ガラス玉をばらまいたみたいに星が輝く空の下、ライトで足元を照らしながら産卵場所に向かった。
人間の気配にユウレイガニが一目散に逃げる。とことこ歩くオカヤドカリに注意を払いながら進んだその先には、人が誤って入ってしまわないよう注意書きが立ててある。満潮まであと数分。ウミガメたちは、卵から孵ってすぐに海へ行くわけではない。不思議なもので、彼らは産卵場所と海が最も近付く満潮を待って、大海原へと飛び出していく。
少しでも生存する確率を高めるために。だけど無事に大人になれるのは、僅か1%程度。
「あ」
ロープに囲われた一帯を照らすと、砂がもぞもぞと動いていた。
「出てきてる」
自然と声が密やかになって、息を詰める。海里はわたしの言葉にひとつ頷いて、ゆっくり静かに彼らの行く手を阻まぬ所で腰を下ろした。
光量を落とし刺激を最低限にする。砂の中から出てきてるのはまだ10匹ほどで、ここから数日の間で無事生まれることが出来た個体が外洋に出ていく。
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